在宅で療養する利用者にとって、急な体調変化が起きた際に「いつでも看護師へ相談できる」体制は極めて重要です。こうしたニーズに応えるため整備されたのが、介護保険における緊急時訪問看護加算です。
しかし、算定条件や必要な体制、区分(Ⅰ)(Ⅱ)の違いは複雑で、訪問看護ステーションの現場では誤解や返戻が起こりやすい領域でもあります。
この記事では、制度の背景や算定要件、区分ごとの違いを整理したうえで、実務でとくに役立つ「緊急訪問の判断基準・流れ」について具体例を交えて解説します。ご覧ください。
緊急時訪問看護加算とは
ここでは、そもそも緊急時訪問看護加算とは何かを紐ほどいていきます。利用者が安心して在宅療養を続けられるように設けられた制度ですが、算定条件や単位数には細かなルールが存在するのです。
ここでは制度の背景や目的、具体的な単位数や頻度、そして算定に必要な体制を解説します。
制度の背景と目的
緊急時訪問看護加算は、利用者が安心して在宅生活を送れるように整備された制度です。背景には「24時間対応できる訪問看護体制」へのニーズの高まりがあります。
急変時にも看護師が駆けつける体制を持つ事業所を評価するために創設されました。
算定単位と頻度
介護保険における加算は、原則として月1回算定可能です。指定訪問看護ステーションであれば加算(Ⅰ)が600単位、加算(Ⅱ)が574単位に設定されています。
初回訪問日の単位数に加えて算定できるため、請求時の管理が非常に重要です(参考:厚生労働省告示)。
算定に必要な体制
介護予防サービスにおいても緊急時訪問看護加算は算定可能です。内容は通常の訪問看護と同様で、利用者や家族の安心を確保するための加算として位置づけられています。在宅生活を長期的に支える観点からも重要な役割を持ちます。
緊急時訪問看護加算のチェックポイント
加算を正しく算定するには、制度の細かな要件を理解しておく必要があります。とくに2024年度改定後は「(Ⅱ)と(Ⅰ)の区分け」が導入され、体制整備の有無によって評価が分かれる仕組みとなりました。
ここからは両者の比較や実務上の注意点を詳しく見ていきます。
基本算定要件
加算を算定するには以下の要件を満たす必要があります。
- 利用者や家族からの電話相談に24時間対応できること
- 計画外の緊急訪問を必要に応じて行えること
- 利用者へ加算算定について説明し、書面で同意を得ていること
- これらは加算(Ⅰ)(Ⅱ)共通の基本要件であり、事業所は必ず満たしておく必要があります。
緊急時訪問看護加算(Ⅱ)の位置づけ
加算(Ⅱ)は、緊急訪問対応体制を備えている事業所を評価するものになります。指定訪問看護ステーションでは月1回574単位が算定可能です。
特徴は「基本的な24時間対応体制が整っていれば算定できる」という点です。特別な勤務間隔の確保などは要件に含まれず、標準的な緊急対応力を評価する仕組みといえます。これにより、多くの訪問看護ステーションが導入可能な区分となっています。
緊急時訪問看護加算(Ⅰ)の特徴
加算(Ⅰ)は、加算(Ⅱ)の要件に加えて「看護師の負担軽減に資する十分な業務管理体制」が求められます。指定訪問看護ステーションでは月1回600単位が算定可能です。
具体的には以下のような取り組みが必要です。
- 夜間対応を行った翌日の勤務間隔の確保
- 夜間勤務の連続回数を2回以内に制限
- 夜間対応後の休日確保
- ICT・AIの導入による業務負担軽減
- 複数看護師による支援体制の整備
これらは「持続可能な24時間対応」を実現するための条件になります。単に緊急訪問できる体制に加え、働く看護師の労働環境にも配慮している点が大きな違いです。
実務上の留意点
区分を選択する際には、単位数だけで判断するのではなく、実際に体制が整っているかどうかが重要です。例えば「夜間対応翌日の勤務間隔確保」が不十分な場合は加算(Ⅰ)の算定要件を満たしません。
無理に(Ⅰ)を選んでも返戻リスクが高まるため、実態に即した区分選択が望まれます。また、同意書や訪問記録の不備も返戻の原因となるため、帳票類の整備は必須です。
緊急訪問の流れと判断基準
緊急時訪問看護加算を適切に活用するためには、制度の理解に加えて「実際にどのような場面で緊急訪問が必要となるのか」を把握することが欠かせません。緊急訪問は、利用者・家族からの連絡を受けてから訪問の可否を判断し、必要に応じて看護師が現地へ向かう一連の流れを指します。
この流れを標準化しておくことで、誤った判断や訪問の遅延を防ぎ、返戻リスクの回避にもつながります。
緊急電話受付時の基本フロー
緊急連絡が入った際は、以下のステップで状況を整理します。
- 状態の把握(一次評価)
症状の急変・痛み・出血・発熱・呼吸状態・意識状態・転倒の有無など、要点を短時間で確認します。家族が慌てている場合は、落ち着いて質問をし、具体的な状況を引き出すことが重要です。 - 緊急性のアセスメント(訪問の要否)
訪問すべき“緊急ケース”か、電話指導で対応できる“非緊急ケース”かを判断します。迷う場合は、「悪化リスク」「既往症」「夜間帯」「独居かどうか」を合わせて総合的に判断します。 - 訪問可否の判断・医師への連絡
必要に応じて主治医へ状況を報告し、指示を仰ぐことも重要です。訪問が必要と判断した場合は、看護師が速やかに現地へ向かう準備を行います。 - 訪問実施 → 処置・評価 → 記録
訪問後は状態改善の確認を行い、必要に応じて医師・ケアマネへ速やかに共有します。緊急訪問記録は返戻リスクが高いため、経緯・対応内容・医師への報告内容を丁寧に記録します。
訪問が必要となる代表的なケース
以下は、訪問看護で“実際に緊急訪問として対応すべきケース”の典型例です。
① 呼吸状態の急変
- SpO2低下
- 息苦しさの増悪
- 在宅酸素のトラブル
事例:「SpO2が85%まで下がっている」と家族から連絡あり → 緊急訪問 → カニューレの閉塞発見・吸引対応 → 主治医報告
② 高熱や急な感染兆候
- 38.5℃以上の発熱
- 強い悪寒・ふるえ
- 悪化が早い疾患(心不全・COPD・がん末期)
事例:夜間に39℃の発熱、嘔気あり → 緊急訪問 → 状態悪化の兆候あり医師へ連絡 → 翌日早朝の受診調整
③ 急激な疼痛・強い苦痛症状
- がん疼痛の急な悪化
- 夜間痛で眠れない
- 鎮痛薬の副作用
事例:痛みで身動きが取れないと家族が連絡 → 緊急訪問 → 追加内服の指示を医師から取得 → 苦痛軽減へ
④ 転倒・けが
- 頭部打撲
- 骨折疑い
- 皮膚損傷・大量出血
事例:深夜にトイレで転倒 → 頭部の腫脹と痛みあり → 緊急訪問 → 必要に応じ救急搬送を判断
⑤ 医療機器トラブル
- CV管理
- ストマ脱落
- バルーン閉塞
- 吸引器・酸素の故障
事例:バルーンが急に抜けたとの連絡 → 緊急訪問し再留置 → 医師へ経過報告
訪問しない(電話指導で対応可能なケース)
すべての緊急連絡が“訪問につながる”わけではありません。
適切な電話指導で十分なケースも多くあります。
- 軽度の不安(「いつもより食べない気がする」など)
- 普段からある症状の軽度な変動
- 服薬時間の確認や生活指導で解決する場合
- すでに主治医へ相談予定で緊急性が低い場合
ただし、電話対応に切り替える際は下記を徹底することが重要です。
- 状態が悪化したら再度連絡するよう伝える
- その日のうちに再評価(電話)を行う
- ケアマネ・医師へ必要な範囲で共有する
- 記録上は「訪問不要と判断した根拠」を必ず残す
まとめ
緊急時訪問看護加算は、在宅療養中の利用者が急な体調変化に見舞われた際でも、安心して看護支援を受けられるように整備された制度です。区分ごとに求められる体制の水準は異なるものの、24時間の相談対応や緊急訪問を行える体制、利用者への丁寧な説明と書面同意といった基本的な要件は共通しています。
さらに、実際の運用においては、緊急連絡を受けてから訪問に至るまでの判断を迅速に行い、その根拠を明確に記録することが欠かせません。訪問すべき状況と電話指導で足りる状況を適切に見極めることで、返戻を防ぎながら利用者の安全と満足度を高めることができます。
制度理解と現場運用を両立することで、訪問看護ステーションは持続可能な緊急対応体制を構築し、地域における信頼をより一層高めることができるのです。
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