訪問看護ステーションを運営するうえで、人員基準は避けて通れない法令上の要件です。基準を満たさずに運営を続けると、行政処分や報酬減算の対象となる可能性があるため、正確な理解と管理が求められます。
ここでは、人員基準の法的根拠や職種別の配置要件、常勤換算の計算方法、そして違反時のリスクと対応策について解説します。、ご覧ください。
人員基準の全体像と法令根拠
訪問看護ステーションの人員基準は、介護保険法および健康保険法に基づく最低限の配置要件です。
目的は「安全で質の高い訪問看護サービスを安定的に提供すること」にあり、国が定めた標準に基づいています。基準は「訪問看護ステーション」「病院や診療所が行うみなし訪問看護」「サテライト出張所」の3形態それぞれに適用されます。
訪問看護ステーションとして指定を受けるには、所定の人員基準を満たしていることが必須条件です。基準を満たさない場合は指定や更新が認められず、運営中に違反が発覚した場合は、行政指導・勧告・業務停止・指定取消の対象となります。
基準の根拠は厚生労働省の「指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準」に示されています。制度改定(令和6年度介護報酬改定)では、ICT活用や兼務条件の見直しなど、現場の実態を踏まえた運用緩和が進められています。
事業者は、各自治体の解釈や通知内容にも注意を払い、定期的な法令確認を怠らないことが重要です。
配置要件と実務ポイント
訪問看護ステーションを運営するうえで、人員配置の基準はもっとも重要な要素の一つです。また、単に人数をそろえるだけでなく、勤務形態や常勤換算、兼務の可否など、実務上の管理方法を理解しておくことが求められます。
ここでは、職種別の基準と運営上の留意点を整理します。
看護職員の配置
人員基準の中心となるのが、訪問看護サービスを担う看護職員です。保健師・看護師・准看護師を常勤換算で2.5人以上配置することが義務付けられています。さらに、そのうち1人は常勤職員である必要があります。
常勤換算の算出は、全職員の勤務時間を合計し、常勤1人あたりの週所定労働時間(例:40時間)で割ることで求められます。非常勤職員が多い場合、合計時間が基準に届かないケースがあるため、月単位で確認する体制が求められます。
また、急な退職や休職によって基準を下回った場合は、速やかに行政へ報告し、人員補充に努めることが必要です。
管理者の資格と兼務の取扱い
管理者は、訪問看護ステーション全体の運営責任を担う立場です。原則として保健師または看護師の資格を有し、常勤かつ専従で配置することが求められます。ただし、業務に支障がないと認められる場合に限り、同一法人内の他事業所と兼務することが可能です。
令和6年度の報酬改定により「同一敷地内」に限定されていた条件が緩和され、離れた場所にある事業所の兼務も可能になりました。ただし、情報共有の仕組みや勤務実態が適正であることが前提条件です。
勤務記録や職務分担表を整備し、管理者業務の可視化を徹底しましょう。
理学療法士・作業療法士・言語聴覚士(PT/OT/ST)
リハビリテーション専門職の配置は、「事業の実情に応じた適当数」とされています。具体的な人数は明示されていませんが、看護職員とのバランスが重要です。令和6年度の介護報酬改定では、リハ職による訪問比率が過度に高い場合に報酬減算が適用されるルールが新設されました。
看護とリハビリの両輪をバランスよく配置し、連携体制を強化することが求められます。職種間の役割分担や情報共有のプロセスを明確に定義しておくと、減算リスクを防ぐことができます。
サテライト出張所の人員基準
サテライト出張所は、地域のサービス提供体制を補完する目的で設置されます。サテライト単独ではなく、本体事業所と合算して看護職員2.5人以上を確保する必要があります。また、常勤職員1人の配置は本体とサテライトを合わせて充足すればよいとされています。
ただし、出張所の設置基準は都道府県によって異なります。本体とサテライト間の距離や連携方法、通信体制などが審査対象となるため、設置前に所管部署との事前協議を行うことが重要です。
常勤換算(FTE)の正しい計算
人員基準の遵守を確認するうえで、常勤換算(Full Time Equivalent:FTE)の理解は欠かせません。
算出式は以下のとおりです。
常勤換算数 = 全職員の合計勤務時間 ÷ 常勤職員の週所定労働時間
たとえば、常勤の週所定労働時間を40時間とした場合、週20時間勤務の非常勤職員は「0.5人」として計上します。時短勤務者は、本人が希望すれば「常勤」として扱える特例があります(育児・介護休業法に基づく)。
ケース別シミュレーション
常勤換算は「見込み」ではなく実績ベースで評価されるため、シフトと勤務記録の整合性が求められます。
| ケース | 合計勤務時間 | 計算結果 | 判定 |
|---|---|---|---|
| 新規開設(非常勤中心) | 85時間 | 2.125人 | 基準未達。採用や勤務時間延長が必要。 |
| バランス型 | 110時間 | 2.75人 | 基準達成。安定運営可能。 |
| パート比率高 | 100時間 | 2.5人 | ぎりぎり達成。欠員時は即違反リスク。 |
また、祝日や有給、研修による労働時間減少も考慮し、常勤換算が一時的に下回る場合には、補完策を準備しておくことが望ましいです。
人員基準違反のリスクと行政対応フロー
人員基準を下回ったまま運営を継続すると、介護報酬減算や行政処分の対象となります。
このうち「人員基準欠如減算」は、未達状態が解消されるまで継続適用され、報酬が大幅に減額されます。経営に直結する影響が大きいため、早期の是正が必要です。
行政対応の段階
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| ① 指導 | 口頭または書面で改善を求められる。計画書の提出が一般的。 |
| ② 勧告 | 指導に従わない場合、期限付きで改善を求められる。内容が公表される場合もある。 |
| ③ 命令 | 勧告無視や改善遅延の場合、業務改善命令または人員増強命令が発出される。 |
| ④ 指定効力停止 | 一定期間、事業を停止される場合がある。請求も制限される。 |
| ⑤ 指定取消 | 最重処分。虚偽報告や不正請求が絡む場合に適用される。 |
過去には、人員基準を満たさない状態を隠蔽し、勤務表を改ざんした事例で指定取消となったケースもあります。違反の隠蔽は信頼失墜につながり、再指定が極めて困難になります。
初動対応のポイント
- 事実確認:基準未達の期間・原因を即時に特定
- 行政報告:速やかに所管部署へ連絡・是正計画を提出
- 是正措置:採用、勤務調整、外部応援で補完
- 記録保存:勤務実績や連絡記録を文書化
- 再発防止:月次換算の自動化、ダブルチェック体制構築
違反を早期に把握し、誠実に対応することが信頼維持の鍵となります。
まとめ
訪問看護ステーションの人員基準は、法令遵守だけでなく、利用者の安全とサービスの質を守るための根幹です。
保健師・看護師・准看護師の常勤換算2.5人以上、常勤1人、管理者1人の配置を基本とし、リハ職やサテライトを含めた体制全体でバランスを取ることが重要です。
経営面では、人材確保と定着率の向上が基準維持の最も現実的な手段です。柔軟な勤務制度の導入やキャリア支援、メンター制度などの人材施策が効果的です。さらに、ICTツールを活用した記録・シフト管理・常勤換算の自動化も有効で、業務効率を高めながら法令遵守を支えます。
人員基準の遵守は、「行政対応のため」ではなく、「利用者への責任」として捉えることが肝心です。制度改定や地域差に左右されず、定期的な自己点検と情報更新を行うことで、安定的かつ信頼性の高い運営が実現します。
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