在宅医療が広がる中で、訪問看護ステーションの開業を検討する事業者が増えています。事業所を設置する際には、介護保険法および健康保険法に基づく指定を受けることが求められます。これが「指定申請」です。
指定申請は、管轄自治体への手続きや準備書類が多く、確認項目も幅広いため、全体像を理解したうえで進めることが重要です。この記事では、指定申請の基本から申請手順、提出書類、注意点までを整理し、制度寄りの視点で解説します。ご覧ください。
訪問看護の指定申請とは(目的と全体像)
訪問看護ステーションを開業するためには、介護保険法および健康保険法に基づく指定を受ける必要があります。指定申請は、事業所として適正な運営体制を整えていることを行政に示す役割を持ちます。
この項目では、指定申請の目的と制度の概要を整理し、全体像を理解しやすい形で解説します。
指定申請が必要となる理由
訪問看護ステーションを開業する場合、介護保険法に基づく「指定居宅サービス事業者」「指定介護予防サービス事業者」としての指定を受ける必要があります。
訪問看護は、介護保険と医療保険の両制度に跨るサービスであるため、法令に沿って運営される体制を整えることが求められます。事業者は、基準に基づく人員配置、運営規程、設備要件を満たしたうえで、申請書類を提出します。
介護保険と医療保険の指定の関係(みなし規定)
介護保険法で指定を受けると、健康保険法による指定訪問看護事業者としても認められます。これは「みなし規定」と呼ばれる仕組みです。別途申請を行わなくても、医療保険での訪問看護が実施できます。
ただし、介護保険の指定を受けても医療保険による指定を希望しない場合には、地方厚生(支)局へ「指定訪問看護事業を行わない旨の申請書」を提出する必要があります。
指定の有効期間(6年間)と更新申請
指定は6年間の有効期間があり、継続して事業を行う場合は更新申請が必要です。更新時には、人員体制や運営規程などの確認が行われます。新規指定の段階から、基準に沿った運営状況を維持しておくことが望ましいと考えられます。
提出先(市か都道府県か)の違い
指定申請の提出先は、事業所の住所によって異なります。
- 政令指定都市・中核市 → 市が窓口
- それ以外 → 都道府県が窓口
事業所所在地に応じた担当窓口を事前に確認しておくと、提出スケジュールの調整がしやすくなります。
指定申請の流れを5ステップで解説(東京都モデル)
東京都では、事業者が指定申請を行う前に「新規指定前研修」を受講することが求められています。申込みは指定月の4か月前末日必着です。
研修の対象は原則として管理者または代表者です。研修受講を前提に申請手続きが進むため、この時期にスケジュールを確定しておく必要があります。
研修では、介護保険制度の枠組み、事業者として遵守すべき基準、各種届出、介護報酬に関する内容が説明されます。
開業後の運営において必須となる知識が中心であるため、研修内容を記録しながら受講することが望ましいです。研修を通じて、事業所として求められる基準の把握が進み、申請書類の作成にも役立ちます。
申請書類には、事業所情報、管理者情報、勤務体制、運営規程、平面図、写真、誓約書などが含まれます。施設の要件や人員体制の整備が必要となるため、早期の準備が必要です。
提出書類は自治体のホームページから一式がダウンロードできることが多く、様式に沿って作成します。
提出書類のみでは判断が難しい場合、担当職員が事業所を訪問し、実地調査が行われることがあります。事業所の設備、管理者の常勤性、勤務体制の実態などが確認されます。
事前に書類の整合性を確認し、設備の配置や掲示物が基準に合致しているかを点検しておくことが重要です。
書類審査と実地調査を経て、指定が認められた場合、指定通知書が発送されます。通知書には指定年月日が記載され、その日が訪問看護ステーションの事業開始日です。
通知書が届いた段階で、各種届け出、利用者受け入れの準備、請求体制の最終調整などを進めます。
指定申請に必要な書類と記載内容
指定申請では、法令に基づく複数の書類提出が求められます。書類の内容は多岐にわたり、申請者情報から運営規程、平面図、管理者の資格証に至るまで幅広い項目が含まれています。
この項目では、介護保険法施行規則を根拠に、必要書類の要点を整理しながら説明します。
指定申請書に記載すべき項目
介護保険法施行規則第116条に基づき、以下の項目を記載します。
- 事業所の名称・所在地
- 申請者(法人)の名称・所在地
- 代表者の氏名・住所・生年月日・職名
- 事業開始予定年月日
- 事業所の区分(病院、診療所、訪問看護事業所等)
これらは事業所の基本情報として必須の項目です。
法人情報(登記事項証明書)
訪問看護ステーションを設置する場合、事業者は法人であることが求められます。そのため、登記事項証明書の添付が必要です。法人の住所、設立目的、役員情報などが確認ポイントとなります。
管理者情報・勤務体制の書類
管理者の免許証の写し、雇用契約書、勤務体制一覧表などが必要です。勤務体制の一覧表では、看護職員の勤務日・勤務時間、常勤換算の計算が明確であることが求められます。
運営規程・料金表・苦情処理体制
運営規程には、提供するサービス内容、営業時間、職員の職務内容、緊急時の対応、苦情処理体制が含まれます。料金表は保険制度に基づいた算定単位を元に作成します。
事業所の平面図・内部写真・設備要件
事業所内のレイアウトを示す平面図と、事業所内部・外観の写真を添付します。利用者との面談スペース、機密保持が確保できる環境、職員の執務スペースなどが整っている必要があります。
介護給付費算定に関する届出
加算の算定を希望する場合、体制に応じた届出書を提出します。
例)緊急時訪問看護加算、特別管理体制加算など。
誓約書類(法70条・115条 等)
申請者が法令に基づき不正行為に該当しないことを誓約する書類が必要です。
指定申請における2つの重要ポイント
指定申請は書類提出だけでなく、準備期間の確保や自治体ごとの運用の違いへの対応が求められます。
この項目では、申請を進めるうえで押さえておきたい注意点を整理し、スムーズな指定取得につながるポイントを紹介します。
自治体ごとに手順が異なる
基本的な流れは共通ですが、提出期限、研修受講の要否、必要書類の細部は自治体ごとに違いがあります。そのため、事前に担当窓口へ確認することが望まれます。
開設準備~申請~開業までに時間がかかる
指定申請は、最短でも4〜6か月程度を要します。開業希望日に合わせて逆算し、以下のように準備を進めます。
- 物件契約
- 管理者確保
- 運営規程作成
- 必要書類の収集
計画的にスケジュールを組むことで、指定申請がスムーズに進みます。
まとめ
訪問看護ステーションの指定申請は、事業開始に向けた重要な制度手続きです。申請にあたっては、研修の受講、書類作成、人員確保、設備準備など、複数の工程を計画的に進める必要があります。
さらに、自治体ごとに求められる内容や提出期限が異なるため、事前の確認が欠かせません。制度に基づいた基準を満たし、適切な運営体制を整えることが、申請の可否に影響します。
訪問看護の需要が高まる中で、基準に沿った事業所を整備し、指定を受けることは、地域で信頼されるステーションづくりの第一歩となります。計画的な準備と制度理解により、開業後の運営も安定しやすくなります。
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