訪問看護は、病院での看護とは異なります。利用者さまの生活の場に直接入り、日常の中で支援を行う仕事です。そのため、看護技術と同じくらい「マナー」や「立ち振る舞い」が大切になります。また、ちょっとした言動が信頼を左右することも少なくありません。
本記事では、サクラボの実際の失敗談をもとに、訪問看護で意識すべき基本マナーや信頼を築くポイントを紹介します。ぜひ、ご覧ください。
サクラボ訪問看護の失敗談
訪問看護の現場では、どれほど経験を積んでも思いがけないミスが起こることがあります。サクラボ訪問看護ステーションでも、日々の業務の中で「気づき」や「反省」から学ぶことばかりです。
今回は、実際にあった事例をもとに、信頼関係の大切さを振り返ります。
利用者さまからの1本の電話
ある日、前の訪問が長引き、次の訪問先への到着が遅れてしまいました。すると、利用者さまから「今日は来ないのかと思いました」と心配の電話をいただいたのです。
私たちは、忙しさの中で一言の連絡を怠ったことが、不安を与えてしまう結果になると痛感しました。たとえ緊急対応があっても、連絡の徹底は信頼を守る第一歩です。
今回の出来事を機に、改めて訪問看護のマナーを見直すきっかけとなりました。
訪問時の基本マナー
訪問看護では、利用者の「生活の場」に入るため、病院以上に立ち振る舞いが見られています。第一印象や細かな所作一つで信頼を得ることもあれば、失う可能性もあるのです。
ここでは、訪問時に押さえておきたい基本マナーを紹介していきます。
第一印象を左右する身だしなみと表情
訪問看護では、利用者や家族が日常を過ごす「生活の場」に入ってケアを行います。病院と違い、自宅はその人にとって最も安心できる空間です。したがって、訪問時の印象は信頼関係の第一歩になります。
- 服装は清潔感のあるスクラブやポロシャツですか?
- シワや汚れがないよう整えてありますか?
- 爪は短く切り、髪はまとめてありますか?
- 派手な化粧や香水、アクセサリーは控えていますか?
香りや見た目の印象で不快感を与えないよう配慮していきましょう。また、表情もマナーの一つです。笑顔で明るく挨拶することで、利用者の緊張を和らげ、ケアがスムーズに進みやすくなります。
訪問前後の基本動作
下記のような細かな所作が「信頼できる人だ」と感じてもらう要素になります。
時間管理
訪問の基本は「時間厳守」です。予定より早く訪問しても遅れても迷惑になるため、5分前の到着を意識します。やむを得ず遅れる場合は、早めに連絡を入れることが大切です。
着衣
玄関では上着を脱ぎ、濡れている場合はタオルで拭き取ります。靴は前を向いたまま脱ぎ、玄関ドア側(下座)に揃えましょう。脱いだ靴を整える際は、相手に背中を向けず体を斜めにして動作するのが礼儀です。
バッグ
訪問バッグやコートは畳やテーブルの上には置かず、床の端や利用者の邪魔にならない場所に置きます。仏壇がある部屋では、正面を塞がないように注意が必要です。
挨拶・言葉遣い・態度
訪問時の挨拶は簡潔で丁寧に行いましょう。とくに初回訪問時は名刺を両手で渡し、相手の目を見ながら笑顔で自己紹介をします。
また、言葉遣いは基本的に敬語を使いますが、過度な丁寧語や堅すぎる言い回しは避け、相手が理解しやすい言葉で伝えることが大切です。
声量やスピードは相手の聴力や理解度に合わせて調整し、相手の表情を見ながら話しましょう。会話の際にはうなずきや共感の姿勢を忘れず、穏やかで誠実な態度を心掛けます。
利用者宅でのNG行為
どんなに慣れた現場でも「やってはいけない行動」を軽く考えると信頼を損なうことがあります。とくに利用者の自宅はプライベートな空間です。マナーを欠いた行動は、相手の生活リズムや安心感を壊してしまいます。
ここでは注意すべきNG行為を整理していきましょう。
私物を無断で使用しない
訪問先では、手洗いや清拭に使う道具を借りる機会があります。その際は、必ず「こちらをお借りしてもよろしいですか」と声を掛けましょう。
慣れてくるとつい気が緩み、勝手に使用してしまうケースがありますが、利用者の私物は生活の一部です。無断使用は信頼を損ねる原因になります。使用後は元の場所に戻し、「お借りしました。ありがとうございました」と感謝を伝えることを忘れずに。
飲食物を受け取るのは原則NG
お茶やお菓子を出してくださる方もいますが、基本的には丁寧に辞退します。「お気遣いありがとうございます。お気持ちだけいただきますね。」と笑顔で伝えると印象を損ねません。
感染症対策や衛生面を考慮し、いただく時間がケア時間を圧迫することも避けたい点です。ただし、繰り返し勧められた場合は臨機応変に対応し、いただく際は「本当にありがとうございます。次回からはお気遣いなさらないでくださいね」と一言添えると良いでしょう。
トイレの使用・長居は避ける
訪問中にトイレを借りることは、できるだけ控えます。事業所や移動中に済ませておくことを習慣づけましょう。どうしても必要な場合は、「申し訳ありませんが、トイレをお借りしてもよろしいでしょうか」と確認します。
また、ケア終了後は長居せず、退出のタイミングを見極めることも重要です。「本日のケアは以上になります。ありがとうございました。また次回伺います。」と丁寧に伝え、必要な報告やサインをもらったら速やかに退出しましょう。時間を守ることも、信頼を積み重ねる基本の一つです。
プライバシーに関する配慮不足
利用者の自宅はプライベートな空間です。訪問中に見聞きした情報を外部に漏らすことは絶対にしてはいけません。
また、同僚との会話でも利用者を特定できるような話題を避け、事業所外での雑談にも注意を払います。
訪問中に聞かれた個人的な話題には、柔らかく答えながらも専門職としての距離感を保つ姿勢が求められます。
プライバシーを守ることは、マナー以前に専門職としての責務です。
信頼を築くためのポイント
訪問看護における信頼関係は、一度で築かれるものではありません。日々の小さな言葉、態度、行動の積み重ねが「また来てほしい」と思われる関係をつくります。
ここでは、信頼を深めるために意識したい3つのポイントを紹介します。
「安心感」を与える対応を意識する
訪問看護では、限られた時間の中で「安心できる人」と思ってもらうことが何より大切です。そのためには、言葉遣いだけでなく、表情・姿勢・動作のすべてに誠実さが表れるよう意識しましょう。
玄関での挨拶、スリッパの脱ぎ方、会話のトーン――こうした一つ一つの行動が、利用者の信頼につながります。
また、訪問時の小さな変化(表情や口調、部屋の様子など)に気づける観察力も信頼関係を深める重要なスキルです。
柔軟なコミュニケーションを心掛ける
マニュアル通りの対応だけでは、真の信頼関係は築けません。たとえば、利用者が不安を抱えている様子であれば、ケアの手を止めて話を聞く時間をつくる。家族が介護に疲れているようであれば、共感と労いの言葉をかける。
「どうしましたか?」ではなく「今日は少しお疲れのようですね」と相手の気持ちを言語化するような声掛けが効果的です。こうした気遣いが積み重なり「この人になら安心して任せられる」と感じてもらえるようになります。
挨拶と笑顔は最大のマナー
信頼を得るための最大のポイントは、やはり笑顔と挨拶です。どんなに技術力が高くても、無表情で機械的な対応では信頼は得られません。
また訪問時・退室時の挨拶、ケア中の声掛け、さりげない会話の中に「温かさ」を感じられるかどうかが、利用者との関係を左右します。訪問看護師にとって「技術」と「人柄」は同じくらい大切な資質です。
笑顔での挨拶は、ケアの質を高める最も簡単で効果的なマナーといえるでしょう。
まとめ
訪問看護は、利用者の生活に直接関わる仕事であり、看護師の言動一つが信頼関係を左右します。今回紹介した基本マナーの身だしなみ、言葉遣い、所作、プライバシー配慮、時間厳守などはいずれも「相手を思いやる気持ち」から生まれる行動です。
訪問先では、看護技術と同じくらいマナーが重視される理由は、利用者が「病院」ではなく「自分の家」でケアを受けるからです。それが訪問看護師としての基本であり、信頼を積み重ねる第一歩です。
笑顔と挨拶、そして丁寧な気配りを忘れずに。それだけで、あなたの訪問はきっと温かく、利用者にとって「また来てほしい」と思える時間になるでしょう。
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