訪日本は世界でも例を見ない超高齢社会に突入しています。その中で、在宅療養を支える訪問看護ステーションの役割はますます重要性を増しています。
一方で、訪問看護を開業するには、資金や人員の確保、法人設立、行政手続きなど多くの準備が必要です。ここでは、開業を目指す方が失敗せずに進めるための4つのステップを解説します。ぜひ、ご覧ください。
情報収集と目的の明確化
訪問看護ステーションの開業において最初に行うべきことは、情報収集と目的と方針の明確化です。
どんな想いで開業し、どんな地域・利用者を支えたいのかを定義することで、後の資金計画や人材採用の軸が決まります。ここでは、情報収集と目的と方針の明確化について確認していきましょう。
訪問看護開業で最初に考えるべきこと
訪問看護ステーションの開業を成功させるために、最初に取り組むべきことは「目的の明確化」です。
なぜ自分は訪問看護を開設したいのか、どんな地域・患者層に貢献したいのかを整理しましょう。目的が曖昧なままでは、方向性を見失いやすく、後の運営で迷いが生じます。
厚生労働省によると、2022年時点で訪問看護ステーションは全国に14,000件を超えていますが、同年には約700件が廃止・休止となっています。開設した後に継続できないケースも多く、理念の確立がいかに大切かが分かりますね。
開業エリア・対象者・サービス内容を具体化する
次に行うべきは、開設場所と対象層、提供するサービス内容の具体化です。
「どこで」「誰に」「どのようなケアを提供するのか」を明文化し、開業エリアのニーズと照らし合わせましょう。たとえば、慢性疾患や難病の利用者が多い地域では、医療依存度の高い利用者への対応体制が求められます。
また、介護事業所や医療機関との連携状況を確認し、差別化できる要素(小児・終末期・リハビリ特化など)を整理することも重要です。
市場調査と差別化の視点を持つ
訪問看護の成功は、「地域の中で何を提供できるか」にかかっています。
競合ステーションの特色、在宅医療の供給量、行政が掲げる地域包括ケア方針を調べ、自社の強みを見出すことが可能です。この段階で、理念や方針を文書化しておくことで、今後採用するスタッフとの価値観共有にも役立ちます。
法人設立と資金計画
理念が定まったら、次は法人設立と資金計画の準備に進みます。訪問看護は個人事業では開設できず、法人格を持つことが前提です。また、初期費用や運転資金の確保も欠かせません。
ここでは、法人の種類や設立手続き、融資・補助金の活用方法を整理していきましょう。
法人設立の基本と選択肢
訪問看護ステーションは、個人では開設できません。都道府県や市区町村から「指定」を受けるためには法人格が必須です。選択肢としては、株式会社、合同会社、医療法人、NPO法人などがあります。
| 法人形態 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 株式会社 | 信用度が高く、資金調達が容易 | 設立費用が高め |
| 合同会社 | 設立コストが低く、手続きが簡単 | 社会的信用が低い傾向 |
| 医療法人 | 信頼性が高い | 設立・管理の手続きが煩雑 |
| NPO法人 | 社会的意義を重視できる | 設立まで時間がかかる |
多くの訪問看護事業者では「株式会社」を選択するケースが一般的です。
設立手続きと専門家活用のポイント
法人登記は、法務局で「商業・法人登記申請」を行うことで完了します。定款作成や登記簿謄本の取得など複数の書類準備が必要となるため、初めての方は税理士や司法書士に相談するのが安心です。
開設資金の内訳と確保方法
開業に必要な資金は大きく「設備資金」と「運転資金」に分かれます。
- 設備資金:事務所の賃料、什器、車両、IT機器など
- 運転資金:職員の給与、社会保険料、備品購入費など
開業直後は報酬入金まで約2か月かかるため、少なくとも3か月分の運転資金を確保しておくことが望まれます。
融資・補助金・助成金の活用
資金調達には、日本政策金融公庫や民間銀行の融資をはじめ、自治体の補助金制度を活用できます。その際、返済計画とキャッシュフローの見通しを明確にしておくことが、審査を通すポイントです。
また、事業計画書の内容が現実的かつ地域性を反映しているかが重視されるため、数字と根拠を伴った計画が不可欠です。
事業計画書の目的と構成
法人を設立したら、次に事業計画の作成と開設準備を進めます。事業計画書は融資審査や指定申請に必要な重要書類であり、経営方針の羅針盤となるものです。
人員体制の構築、事務所や備品の準備、運営規程の整備など、実務的な準備をこの段階で一気に進めていきましょう。
事業計画書の目的と構成
事業計画書は、訪問看護の「設計図」といえる存在です。融資や指定申請に必要なだけでなく、今後の経営判断の指針にもなります。
記載すべき主な項目は以下の通りです。
- 会社概要
- 事業の目的と理念
- サービス内容と対象者
- 開設資金・資金調達方法
- 収支予測・採算性
- 人員構成・運営体制
とくに資金計画と収支見通しは、信頼性を左右する重要項目です。
事務所選定と設備基準
開設場所は、スタッフが通いやすく、地域の医療・介護拠点にアクセスしやすい立地が理想です。また、都道府県ごとに細かな基準が設けられている場合があるため、事前確認が必要です。
プライバシーを保てる相談スペースや、個人情報保護のための鍵付き書庫を備えるなど、法的・倫理的な基準を満たす環境づくりを心がけましょう。
人員配置と採用の進め方
訪問看護ステーションでは、常勤換算で2.5人以上の看護職員(保健師・看護師・准看護師)が必要です。管理者は看護師であることが求められ、准看護師は管理者になれません。
さらに、リハビリ専門職(理学療法士・作業療法士・言語聴覚士)や事務員の配置も検討しましょう。採用時には「理念への共感」を重視することで、開業後のチームワークと離職率低下につながります。
備品・マニュアル・規程の準備
必要な備品は、パソコン、プリンター、車両、ロッカー、感染対策用品、応接セットなど多岐にわたります。あわせて、運営規程や感染症マニュアル、就業規則、苦情対応マニュアルなどを整備し、行政の実地調査にも備えましょう。
指定申請から開業までのステップ
事業計画と準備が整ったら、いよいよ指定申請を行います。
書類提出から実地調査、指定通知の受領までを経て、正式に開業が認められます。開業後は地域との信頼関係づくりが欠かせません。
医療機関やケアマネージャーとの連携を深め、地域に必要とされるステーションを目指しましょう。
指定申請の流れと必要書類
訪問看護を正式に開始するには、都道府県または市区町村への「指定申請」が必要です。申請の流れは自治体ごとに異なりますが、概ね以下のステップで進みます。
- 新規指定前研修の受講
- 指定申請書類の提出
- 実地調査・審査
- 指定通知書の受領
申請書類は10種類以上に及ぶため、余裕を持って準備を始めましょう。
実地調査と指定通知書の受領
書類審査の後、現地確認(実地調査)が行われる場合があります。設備や人員配置、運営規程の整備状況が確認され、問題がなければ指定通知書が発行されます。
通知書に記載された指定日から、正式に事業を開始すること可能です。
保険加入と法令遵守体制の整備
訪問中の事故やトラブルに備え、損害賠償保険への加入が義務付けられています。また、業務管理体制届出を行い、法令遵守マニュアルや感染対策手順を社内で共有しておきましょう。
(参考:全国訪問看護事業協会「賠償責任保険制度」https://www.hokan-kyosai.org/)
開業前営業と地域連携
指定を受けた後は、開業日までに地域のケアマネージャー、医師、病院ソーシャルワーカーへの挨拶回りを行いましょう。オープン初日から依頼が入るよう、顔の見える関係づくりが重要です。
地域のカンファレンスや医療・介護連携会議にも積極的に参加し、信頼を構築します。
開業後の運営と安定化に向けて
開業後は、職員教育やサービス品質の向上を継続して行いましょう。
とくに初年度は人員・経営・営業のバランスが課題となります。データ収集と振り返りを定期的に行い、柔軟に改善を進めることが成功の鍵です。
まとめ
訪問看護ステーションの開業は、書類や手続きの連続に思えますが、その本質は「地域と人を支える仕組みをつくること」にあります。開設までの流れを丁寧に追うと、どの工程も「理念」と「計画性」が軸にあることが分かります。
目的を明確にし、地域の医療・介護資源を理解した上で、自分たちにしかできない役割を見つけることが第一歩です。さらに、成功するステーションほど「人」を大切にしています。採用段階で理念を共有し、チームとしての一体感を育むことが、長期的な安定経営につなげることが可能です。
制度や報酬改定に対応しながらも、スタッフが安心して働ける環境を整えることが、結果的に利用者満足度の向上にも直結します。訪問看護は、医療・福祉・地域社会をつなぐハブのような存在です。開業という選択は決して簡単ではありませんが、その分だけ地域に与える影響も大きいものです。
「自分たちのケアが誰かの生活を支える」という誇りを胸に、現場の声を拾いながら成長していくことが、訪問看護ステーション経営の真の成功といえるでしょう。
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